ヨーロッパ中世・ルネサンス研究所 第二十五回研究会報告
去る2018年5月12日に早稲田大学において、当研究所の第二十五回研究会が開催されました。
「早稲田大学高等研究所セミナーシリーズ〈新しい世界史像の可能性〉」との共催でした。

プログラムおよび報告要旨は以下の通りです。
お名前隣のPDF版のテキストリンクに要旨記事を掲載しております。
全体のテーマ
「中世スペインの王権と宗教的マイノリティー」
報告者
久米 順子(東京外国語大学 准教授)報告要旨(pdf)
タイトル
「カトリック王と宗教的マイノリティ集団:写本挿絵にみるカスティーリャ王国アルフォンソ10世とその宮廷」
コメンテーター
黒田祐我(神奈川大学准教授)
久米氏は、13世紀のカスティーリャ王アルフォンソ10世が制作させた写本挿絵に、宗教的マイノリティ集団(ムスリムとユダヤ)がどのように描かれているかを考察された。多数の挿絵を含む《聖母マリア詞華集》においては、ムスリムは裏切り者として、ユダヤ教徒は不信心者として描かれることが多いが、キリスト教徒にとって「よき」異教徒も現れる。ムスリムの王の扱いは、キリスト教諸国の王と同列である。異教徒同士がゲームに興じる挿絵で著名な《チェス、さいころ、盤上ゲームの書》写本においては、実際にゲームで対峙するのは同一のグループに属する者同士が多く、勝負は社会的なヒエラルキーに従いがちであることがわかる。ムスリムやユダヤ教徒の容貌と装いは多様だが、ターバンや帽子、髭や靴などがキリスト教徒とは異なる傾向がある。 彼ら宗教的マイノリティ集団の多彩な描写にはアルフォンソ10世の宮廷の現実と宗教的イデオロギーが同時に反映されていることが明らかである。

この報告に対し、黒田氏よりコメントが出された。黒田氏は、アルフォンソ10世の治世期におけるカスティーリャ王国社会を概観するにあたって、王国の再編成と北アフリカへの拡大を実施した初期、神聖ローマ皇帝への立候補を目論んた中期、そして王国の内戦に翻弄された後期という三時期に分割して考察することの重要性を強調された。そして、王の対ムスリム政策には現実的な側面もあり、辺境(フロンティア)の国王として教会や教皇庁の理念とは一線を画していることを指摘された。
報告後、会場からの質問を交えたディスカッションが行われました。
盛況であり、また活発な質疑応答がなされたことも記して感謝申し上げます。
お運びくださった皆様、ありがとうございました。
(文責:鈴木・毛塚)
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